「同人誌売ってる奴」、二次創作について
のエントリの元増田が、以下のページにて同人問題についてコメントしている。
これらのコメントを読んでいると、元増田エントリで見られた煽りよりも、同人誌の頒布についてまじめに考え込んでいるようだ。
ならば話そうじゃないか、ここで。
まず根本部分。
本の形で出したいんだ、とかいう奴もいるけど別にネットに公開した上で本も出せばいい話だろうに。
同人誌売ってる奴ってなんなの?
ネットで公開すると、より多くの読者にリーチできる可能性はある。実に多大にある。しかし一方で想定以上の読者にリーチしてしまうというのはリスクでもある。
ネットでアクセスを稼ぎすぎて出版社に目をつけられるのはどうしたって避けたいところだろう。実際ドラえもん最終回など、「同人誌に限定されていれば大きな問題にはならなかった」例も既に出ているし、ある現役の漫画雑誌編集者と話をした際にも「同人誌という枠にあるうちはいいけど、ネットで堂々と漫画が公開されるようになってしまうと規制せざるを得ないよね。影響が大きすぎるから」という話は出ていた。
ネット・無料というのは力が強すぎるんだ。本体である漫画雑誌・単行本の影響力を超えてしまうほどに。原作者側としては二次創作によって金銭の授受が行われているかよりも、それらの行為によって意図しない反響が起こってしまうことの方こそ恐れている。ドラえもん最終回に見られる「勝手に設定を付け加えられ感動されてしまう状況」、初音ミクに見られる「ネギを持つという勝手なキャラクター設定追加」などだ。原作者の手の及ばない範囲で作品に勝手なイメージが付き、以降の展開でそれらを裏切ることが難しくなるのは何よりも避けなければならない。
であるから、同人者たちが自分たちの二次制作品をネットで公開することに消極的な現状は、原作者達とぎりぎりの折り合いがつく結果になっていると言えるだろう。
次。
人の権利侵害して金儲けする行為がここまで堂々と街中で行われてるのは先進国として異常じゃないの?
同人誌売ってる奴ってなんなの?
先進国云々はどうでもいいが、権利侵害に関して言っておこう。
確かに二次創作同人は権利侵害だ。現在のところ二次制作同人は原作者側が大きなアクションを起こさないことを前提に、「黙認」を好意的解釈して活動しているに過ぎない。ある日出版社なり制作会社なりが同人を禁じたなら、原作者が漫画のコマ外で「俺のキャラクターで同人活動をするなんて一切まかりならん」とコメントしたならば、一瞬で大義名分を失ってしまう危うい存在だ。
これは同人誌を無料にしようが有料にしようが変わらない。
権利者側から見れば同人者が二次創作して小金を稼ぐことなんて、大した問題ではないのだ。キャラクタービジネスをやっていればどの会社もライセンス違反の問題にブチあたるが、それらが下手なアウトプットをしてブランドイメージを低下させてしまうこと、それらが変に影響力を持ち著作物に関するイニシアティブを握ってしまうこと、それらに人が集まることで原作たる著作物がただのネタ元になり人が集まらなくなってしまうことこそが大問題なのだ。
もちろん権利者として人の褌で稼がれることに関する不満を帳消しにするつもりはない。だがこのエントリの筆者たる俺も1権利者であったが、これは上記に比べれば些細な問題に過ぎない。この不満は著作権法という法律によって容易に、今すぐ解決できる話だ。
でだ。君はどうなんだ?
ニコ動なりpixivなりで著作権を侵害した作品を閲覧している君は。
視聴者としてこの権利侵害に参加している君は、作り手だけを「侵害者」として糾弾する権利があるとでも思っているのか?
著作権侵害という問題は同人誌として公開しようが、ネットに公開しようが変わらない。著作権を侵害しているという意識は作り手も、受け手も同時に持つべきものなのだ。関わる全てが共犯意識を持つべきなのだ。さらにこの問題のプレイヤーは作り手受け手だけではない。ニコ動・pixivなどの場の提供者はそれ以上にこの問題について薄氷の上を歩いているし、二次創作市場を利用するいくつかの著作者サイドはこの共犯意識に意図的に荷担している(そしていつでも裏切る可能性を秘めている)。
著作権侵害云々を声高く言えるのは全ての二次創作を否定できる人間だけだ。優良だ無料だという枠は関係ない。
で、君は二次創作作品を受け取る身として、「お前ら送り手は二次創作の一切のリスクを抱え込んで俺ら受け手に良質な二次創作品を無料で提供すべきだ」と発言するのか?麻薬のブローカーが金を儲けることを責めて自分は麻薬を無料で享受したい、そんな意見にしか聞こえないが反論はあるかね?
といったところが君の論の根本部分に対する言及だ。
どうだろう?ここまでで反論する箇所はあるだろうか?
そして以下は同人という世界に踏み込んでの話になる。
結局、何のかんのいってお金とって売ってる時点でどう言い訳しようと商売だろ。
同人誌売ってる奴ってなんなの?
正直、この部分は多分に事実を含んでいる。
同人誌制作を始めようと思った奴が、一度たりとも黒字を考えず、100%純粋に「多くの人に見てもらいたい」とだけ考えていたか。否だ。
同人誌制作者が頒布という理念を徹底し、全部さばけて諸経費とトントンにするよう頒布価格設定をしているか。多くの制作者は否だ(コピー本制作者で少なからぬ数の同人者がこういう価格設定を行っている事例は知ってる。素晴らしい心意気だと思う)。
そして、一度のコミケで数百万単位の利益を得る大手サークルが存在することは間違いない事実だ。いきなり3万部も捌ききる、同人と呼ぶには影響力の大きすぎるサークルもある。「げんしけん」にも登場したような同人ゴロは多数いるし、著作権問題についてさらにまじめに考えるべきプロが生活費稼ぎのために同人を出す事例だって多い。同人者から見て明らかに金目当ての粗悪な作品も多い。この点については「同人市場」が確立されちまった80年代から同人関係者内部でも問題として語られている話で、これを否定することは誰にもできないだろう。
もはや同人誌界隈が「頒布」という言葉を盾にできる時代は過ぎ去っている。一人一人の思惑がどうであれ、同人誌文化を見たときに同人誌即売会という存在が趣味と呼ばれるものから「同人市場」というステージに移行してしまってる。
だがその上でコミケ1回に30,000サークルが集まり、そのほとんどが赤字と在庫を抱えつつそれでもなお参加を続けるのは、本当に同人誌という形式に、同人誌を介して受け手と交わすコミュニケーションに愛情を持っているからだということは、心の片隅に置いてほしい。片隅に置いた上で阿呆どもと貶すのは君の勝手だ。残念だがそれが趣味ってもんだ。
pixivにイラストを投稿するよりも遥かに手間がかかり、趣味として出すには高額な印刷代とコミケ参加費が必要なのが同人活動だ。正直、コミケに参加する30,000サークルのうち、ネットで活動すりゃ神扱いされるだろうに愚直に同人誌だけで活動しているために赤字と在庫ばっかり積み上げてる奴は多い。
やってることは著作権侵害だ。それを否定はしない。ただそこには、君が気持ち悪いという「参加者」が、赤字と在庫覚悟でコミケに参加する同人者に対して「君の趣味が1日でも長く続くように、1冊分だけだけど俺も協力するぜ」と500円を払うことを惜しまない光景があるんだということは、それこそが同人における金銭の授受の姿だということはわかってほしい。
元増田が宣言するまでもなく、発表の場を同人誌からネットに移している人間は徐々に増えている。それに従って「あえて同人誌即売会に参加する奴は金を稼ぎたいだけじゃね?」と思われる機会もさらに増えていくだろう。というか、少なくとも俺が同人誌文化に参加した17年前には既に問題になっていた話ではある。
嫌儲が二次創作に関して言説の主流となることも避けられないだろう。発表する側が全てのコストを抱えなければならない状況はとっくに来ているが、アマチュア活動の範囲を超えて二次創作で儲けることができなくなることは同人者たちの抱えていた問題を1つだけ解決するだろう。
しかし、二次創作が著作権侵害であること、送り手と受け手の共犯行為であることは変わらない。そのリスクを送り手だけに問うのなら、ネット上でも二次創作の火は細くなるだろう事は意識しておいた方が良い。
彼らが全員オリジナルで勝負すりゃいい、と思うなら話は別だが。
(個人的にはそこからいろんな文化が発達してくれた方が楽しいなぁと昔から思って活動していたりもしたわけで、ちっとも脅しにならないのだけど)
追記:エントリを上げる前後でid:y_arimさんがtwitter上で紹介された
ハピゼ - はてなハイク
を見ていろいろ考えさせられた。
文中でも触れているがこの問題は同人者がむしろ積極的に取り上げるべきものであり、むしろ俺としても無批判に同人を肯定するブコメの方が批判しなければならないだろうと思う。id:hapze-23_45さんの感覚は今の同人文化にとって極めて重要だ。
ちょっとこの問題については考えをまとめて再度上げたいと思う。