hatena@raf00

@raf00のはてな出張所

「同人誌売ってる奴」、二次創作について

同人誌売ってる奴ってなんなの?

のエントリの元増田が、以下のページにて同人問題についてコメントしている。

煩悩是道場
はてなダイアリー
はてなダイアリー

これらのコメントを読んでいると、元増田エントリで見られた煽りよりも、同人誌の頒布についてまじめに考え込んでいるようだ。
ならば話そうじゃないか、ここで。


まず根本部分。

本の形で出したいんだ、とかいう奴もいるけど別にネットに公開した上で本も出せばいい話だろうに。
同人誌売ってる奴ってなんなの?

ネットで公開すると、より多くの読者にリーチできる可能性はある。実に多大にある。しかし一方で想定以上の読者にリーチしてしまうというのはリスクでもある。
ネットでアクセスを稼ぎすぎて出版社に目をつけられるのはどうしたって避けたいところだろう。実際ドラえもん最終回など、「同人誌に限定されていれば大きな問題にはならなかった」例も既に出ているし、ある現役の漫画雑誌編集者と話をした際にも「同人誌という枠にあるうちはいいけど、ネットで堂々と漫画が公開されるようになってしまうと規制せざるを得ないよね。影響が大きすぎるから」という話は出ていた。
ネット・無料というのは力が強すぎるんだ。本体である漫画雑誌・単行本の影響力を超えてしまうほどに。原作者側としては二次創作によって金銭の授受が行われているかよりも、それらの行為によって意図しない反響が起こってしまうことの方こそ恐れている。ドラえもん最終回に見られる「勝手に設定を付け加えられ感動されてしまう状況」、初音ミクに見られる「ネギを持つという勝手なキャラクター設定追加」などだ。原作者の手の及ばない範囲で作品に勝手なイメージが付き、以降の展開でそれらを裏切ることが難しくなるのは何よりも避けなければならない。
であるから、同人者たちが自分たちの二次制作品をネットで公開することに消極的な現状は、原作者達とぎりぎりの折り合いがつく結果になっていると言えるだろう。


次。

人の権利侵害して金儲けする行為がここまで堂々と街中で行われてるのは先進国として異常じゃないの?
同人誌売ってる奴ってなんなの?

先進国云々はどうでもいいが、権利侵害に関して言っておこう。
確かに二次創作同人は権利侵害だ。現在のところ二次制作同人は原作者側が大きなアクションを起こさないことを前提に、「黙認」を好意的解釈して活動しているに過ぎない。ある日出版社なり制作会社なりが同人を禁じたなら、原作者が漫画のコマ外で「俺のキャラクターで同人活動をするなんて一切まかりならん」とコメントしたならば、一瞬で大義名分を失ってしまう危うい存在だ。


これは同人誌を無料にしようが有料にしようが変わらない。
権利者側から見れば同人者が二次創作して小金を稼ぐことなんて、大した問題ではないのだ。キャラクタービジネスをやっていればどの会社もライセンス違反の問題にブチあたるが、それらが下手なアウトプットをしてブランドイメージを低下させてしまうこと、それらが変に影響力を持ち著作物に関するイニシアティブを握ってしまうこと、それらに人が集まることで原作たる著作物がただのネタ元になり人が集まらなくなってしまうことこそが大問題なのだ。
もちろん権利者として人の褌で稼がれることに関する不満を帳消しにするつもりはない。だがこのエントリの筆者たる俺も1権利者であったが、これは上記に比べれば些細な問題に過ぎない。この不満は著作権法という法律によって容易に、今すぐ解決できる話だ。


でだ。君はどうなんだ?
ニコ動なりpixivなりで著作権を侵害した作品を閲覧している君は。
視聴者としてこの権利侵害に参加している君は、作り手だけを「侵害者」として糾弾する権利があるとでも思っているのか?
著作権侵害という問題は同人誌として公開しようが、ネットに公開しようが変わらない。著作権を侵害しているという意識は作り手も、受け手も同時に持つべきものなのだ。関わる全てが共犯意識を持つべきなのだ。さらにこの問題のプレイヤーは作り手受け手だけではない。ニコ動・pixivなどの場の提供者はそれ以上にこの問題について薄氷の上を歩いているし、二次創作市場を利用するいくつかの著作者サイドはこの共犯意識に意図的に荷担している(そしていつでも裏切る可能性を秘めている)。
著作権侵害云々を声高く言えるのは全ての二次創作を否定できる人間だけだ。優良だ無料だという枠は関係ない。
で、君は二次創作作品を受け取る身として、「お前ら送り手は二次創作の一切のリスクを抱え込んで俺ら受け手に良質な二次創作品を無料で提供すべきだ」と発言するのか?麻薬のブローカーが金を儲けることを責めて自分は麻薬を無料で享受したい、そんな意見にしか聞こえないが反論はあるかね?


といったところが君の論の根本部分に対する言及だ。
どうだろう?ここまでで反論する箇所はあるだろうか?
そして以下は同人という世界に踏み込んでの話になる。

結局、何のかんのいってお金とって売ってる時点でどう言い訳しようと商売だろ。
同人誌売ってる奴ってなんなの?

正直、この部分は多分に事実を含んでいる。
同人誌制作を始めようと思った奴が、一度たりとも黒字を考えず、100%純粋に「多くの人に見てもらいたい」とだけ考えていたか。否だ。
同人誌制作者が頒布という理念を徹底し、全部さばけて諸経費とトントンにするよう頒布価格設定をしているか。多くの制作者は否だ(コピー本制作者で少なからぬ数の同人者がこういう価格設定を行っている事例は知ってる。素晴らしい心意気だと思う)。


そして、一度のコミケで数百万単位の利益を得る大手サークルが存在することは間違いない事実だ。いきなり3万部も捌ききる、同人と呼ぶには影響力の大きすぎるサークルもある。「げんしけん」にも登場したような同人ゴロは多数いるし、著作権問題についてさらにまじめに考えるべきプロが生活費稼ぎのために同人を出す事例だって多い。同人者から見て明らかに金目当ての粗悪な作品も多い。この点については「同人市場」が確立されちまった80年代から同人関係者内部でも問題として語られている話で、これを否定することは誰にもできないだろう。


もはや同人誌界隈が「頒布」という言葉を盾にできる時代は過ぎ去っている。一人一人の思惑がどうであれ、同人誌文化を見たときに同人誌即売会という存在が趣味と呼ばれるものから「同人市場」というステージに移行してしまってる。


だがその上でコミケ1回に30,000サークルが集まり、そのほとんどが赤字と在庫を抱えつつそれでもなお参加を続けるのは、本当に同人誌という形式に、同人誌を介して受け手と交わすコミュニケーションに愛情を持っているからだということは、心の片隅に置いてほしい。片隅に置いた上で阿呆どもと貶すのは君の勝手だ。残念だがそれが趣味ってもんだ。
pixivにイラストを投稿するよりも遥かに手間がかかり、趣味として出すには高額な印刷代とコミケ参加費が必要なのが同人活動だ。正直、コミケに参加する30,000サークルのうち、ネットで活動すりゃ神扱いされるだろうに愚直に同人誌だけで活動しているために赤字と在庫ばっかり積み上げてる奴は多い。
やってることは著作権侵害だ。それを否定はしない。ただそこには、君が気持ち悪いという「参加者」が、赤字と在庫覚悟でコミケに参加する同人者に対して「君の趣味が1日でも長く続くように、1冊分だけだけど俺も協力するぜ」と500円を払うことを惜しまない光景があるんだということは、それこそが同人における金銭の授受の姿だということはわかってほしい。


元増田が宣言するまでもなく、発表の場を同人誌からネットに移している人間は徐々に増えている。それに従って「あえて同人誌即売会に参加する奴は金を稼ぎたいだけじゃね?」と思われる機会もさらに増えていくだろう。というか、少なくとも俺が同人誌文化に参加した17年前には既に問題になっていた話ではある。
嫌儲が二次創作に関して言説の主流となることも避けられないだろう。発表する側が全てのコストを抱えなければならない状況はとっくに来ているが、アマチュア活動の範囲を超えて二次創作で儲けることができなくなることは同人者たちの抱えていた問題を1つだけ解決するだろう。
しかし、二次創作が著作権侵害であること、送り手と受け手の共犯行為であることは変わらない。そのリスクを送り手だけに問うのなら、ネット上でも二次創作の火は細くなるだろう事は意識しておいた方が良い。
彼らが全員オリジナルで勝負すりゃいい、と思うなら話は別だが。


(個人的にはそこからいろんな文化が発達してくれた方が楽しいなぁと昔から思って活動していたりもしたわけで、ちっとも脅しにならないのだけど)


追記:エントリを上げる前後でid:y_arimさんがtwitter上で紹介された
ハピゼ - はてなハイク
を見ていろいろ考えさせられた。
文中でも触れているがこの問題は同人者がむしろ積極的に取り上げるべきものであり、むしろ俺としても無批判に同人を肯定するブコメの方が批判しなければならないだろうと思う。id:hapze-23_45さんの感覚は今の同人文化にとって極めて重要だ。
ちょっとこの問題については考えをまとめて再度上げたいと思う。

自演乙くらいでプロ格ヲタの領域に踏みこんでんじゃねえよ糞アニヲタ共

あのな。
俺らプロ格ヲタは一般人がにわか気取って格闘技を語られるのには慣れてんだ。「魔裟斗かっこいい!MAXで最強だよね!」なんて言っちゃったり「プロレスってなんでロープに振ると帰ってくるの?」とかそういうことにも言われ慣れてる。だから別段腹も立たないんだけど。軽く無視するんだけど。


でもな。
普段マンガ・アニメ方面にいらっしゃるオタクの方々が長島☆自演乙目当てにk-1に群がって来てんじゃないよ。一般人は適当にミーハーなまま語るからいなしやすいけどお前ら中途半端に知識があるからやりづらいんだよ、イライラするけど表だって反論できなくて超もやもやするんだよ!こっちだってスポーツ冒険家北尾とか曙とかが出てくるまで「立ち技なら相撲最強」とかぬかしちゃってたクチだよ煩ぇな。ぶっちゃけどちらも甲乙つけがたく痛いのでなんとも言えねぇんだよ、しかも俺の場合どっちの文脈も理解してるもんだから超もやもやするんだよ!んで長島のコスプレ目当てにようつべやらニコ動漁ってるだけのくせに格闘技偉そうに語ってんじゃないよアカのどん百姓どもめ、俺らもムエタイの本場タイの現役ランカーとか各キックボクシング団体の詳細を知らずに偉そうに語って恥かいたりしてるけどそんなこと知ったこっちゃないよ、それにあれ、長島の試合を知った風に語るのも恥ずかしいんだよ!まずあれだ、長島強いじゃんとか言ってる連中!お前らに何がわかるんだよ!?今回のトーナメントは日本代表決定戦であって予選の予選みてぇなもんなんだよ、長らく無様な試合しかしてねぇ小比類巻を本格的に切るか切らないか、査定するためにあるようなラインナップなんだよ。あと最近ちっと調子こいてるHAYATOを引き立てるためにイロモノ枠として当てられたような査定だったんだよ当初は!で、蓋を開けてみたら思いの外やるんで驚いちまったけど、まだまだ蹴りに対する課題が多かったり、負けたHAYATOも不用意な動きが散見されてフックもらっちまったりしてんだよ。むしろ普通にガードしてるHAYATOの両腕にパンチ刺し込む当て勘の良さとかパターンが見えてて膠着しがちな最近のK-1ではイイ感じに前に出るところとか細かいけどそういうところを見てやれっての!最近アンディ・オロゴン含めイロモノ枠の方が元気があってK-1本体がとんでもなく品質低下している状況をくんでくれ!それにジョシュ・バーネット異種格闘技戦させろとかありえないから!新日本プロレスの興業で「オマエハモウシンデイル」を場内全員で絶叫したこととか秘密だから!実はジョシュ・バーネットが大好きで某とらのあなでジョシュのサイン見かけて狂喜乱舞したりしたことも秘密秘密秘密!「HAYATOが試合前に『K-1とオタクの違いを見せてやる』とかまた調子ブッこいて負けたからスッキリしてんじゃない?」とかそういう指摘も無しだ、全部俺だけの秘密だ!K-1に声優の一人二人出てきたところで騒ぐなってんだオタク寄りスポーツファンならこのくらいなんということもなくて林原めぐみなんてF1のオープニングの煽り映像に登場した時にモロ綾波だったけどF1ファン達はそこで慌てず騒がず紳士的にF1ファンである自我を保ってきたんだよスポーツ観戦時ってのはそういうもんなんだよとは言ってもPRIDEヲタなら立木文彦の煽りは極上の素材で声優知識皆無でも立木文彦だけは知っているなんて奴もいたりして碇ゲンドウを演じてたことなんてすっかり忘れちゃうくらいの存在感というかむしろ神!あぁ佐藤Dありがとう!!なんて思っちゃったりしているけど、まぁそれはそれとして騒ぐな。今回は長島自演乙がオタクだっただけで過去にも格ヲタの少なからぬ数が兼漫画アニメヲタだと知っている興行主(とメディア)が時々いらぬサービスをしてくれちゃったりしてるのは両属性を持つヲタクなら薄々感づいてるんだから!で、一部の両属性を持つヲタはありがてぇんだか迷惑なんだかよくわからない感情をもてあましてるんだから!あとあれだ、中島愛が格闘技適性があるだとぅ!?What!?What!?まめぐは生粋のWWEヲタでかつアティテュード路線時代のファンだから格闘技適性は薄いんだよ、だってSCSAとHBKファンだぞ「好きな曲はGlass Shatterです。好きなバンプはシェインのスタナー受けです」なんてまめぐSaid soなくらいのスポーツエンタメヲタだぞあいつ20歳になったから絶対ライブ後とかに豪快にビール一気飲みしてるぞ調子に乗ってビール運搬車ステージに持ってきてホースで観客全員にビールぶちまけるかもしんねえぞ!まめぐめもで質問コーナーをやるたびにプロレスネタに言及して語りたくて語りたくて仕方なくてアメプロ知らない連中をガチで差し置いてるんだぞそこはお前ら黙って受けろ受け切れよ、受けの美学だ受けの美学!しかしなんというか俺にとってまめぐはWWEヲタとして先輩なので迂闊なこと言えねえんだよ馬鹿野郎!まめぐが持ってるストンコネックレスって結構高ぇんだぞ、それを高校生の頃に購入するなんてなんというストンコヲタ!ごっついよ!女子校生がごっついドクロのゴールドネックレスするなんて尋常じゃないよ!?もうおまえら「まめぐ」と呼び捨てにすることは許さん、たった今からまめぐ様と呼べ。まめぐ様が中指おっ立てたら歓声で応えろ。まめぐ様のスタナーは見事に受けろ。まめぐ様が口を開いたら野郎全員野太い声で「What!?」と合わせろ!ともかくそんなまめぐ様が格闘技適性なんてあるかボケェェェェェェェ!!(いやすまん、アメプロヲタでも格闘技好きは普通に多いのでこれは格プロヲタ内で勝手に論争したりする悪癖であり中島愛さんが本当は格闘技が好きかどうかは知ったこっちゃございませんこと、ご了承くださいませこん畜生)それにあれだ「銀河のはへまへ〜」とか舌っ足らずさにツッコんでんじゃねぇよそりゃあ俺らもPRIDEの島田レフェリーが登場した瞬間にブーイング浴びせたり永源遙なんて舌っ足らずどころか唾飛びまくりで大変だけどわざわざ傘持って行って唾よけアピールしちゃったりするようなお約束なところはあるけどとにかく長島があんなでも入場っつったら格闘技の華なんだから長島見てやれよっつうかあれを「どの出場選手よりも”エンタメ”を理解していると思う」とかケツの穴から屁の代わりに噴き出す馬鹿野郎には泣くまでロック様とライガー様の入場シーンを堪能させた後、携帯着うたを「風になれ」に変えさせていただくけどな、っつうか俺のまめぐ様にツッコむな。つまり何を言いたいかというと、


まめぐはいいよね。

ゲーム会社各社は積極的にニコ動を活用すべき

[ 日々是遊戯:ゲームも今や「ネットで見る」時代に? ――動画共有サイトで広がる「実況プレイ」の波 - ITmedia Gamez]

ニコニコ動画でゲームプレイ動画が流行っているそうです。確かに最近よくランキング入りしているのを見かけるし、何本かのネタプレイにはかなり笑わされました(ゲーム実況はあまり見ていませんけど)。


様々なゲームが再発掘されている状況はゲーマーとしてかなり嬉しいのですが、この傾向って、「音楽/PVがガンガン削除された」→「アニメやドラマなどの動画がガンガン削除された」という流れがある結果それらの下にいたゲーム動画が浮上しただけではないのか、と思ったりもしています。あと普通に著作権には引っかかるのでグレーではなく「黙認されている黒」であるという認識は必要かと思います。


ただ。
音楽やアニメなどはコンテンツそのものをコピーされるためかなりピリピリする必要があるのですが、ストーリーがエンタメ性の高い比重を占めるジャンルを除けば、ゲームは体験こそが重要。各社がむしろ積極的に取り組んでも良い領域ではないかと思うのです。


例えばSTGやレースゲームなどのジャンルではリプレイデータを保存できる機能がついたソフトが多いですが、これなんてどんどん公開させてしまうべき。
いっそソフト内のパッケージとして動画共有サイトへのリプレイムービー編集/アップ機能を提供してしまうといろいろオイシイのではないでしょうか。


自前のサーバーにアップする仕組みとするとサーバーの管理費が馬鹿にならない上に未プレイユーザーへの宣伝にもならないところ、youtubeやニコニコの形式に変換してアップさせてしまえば維持費がかからず、ゲームを知らないユーザーに触れる機会にもなります。
ついでにムービーの最初と最後にブランド名や広告を挿入するようにすれば、ユーザーが勝手に広告をばらまいてくれるので大変効率がよろしい。


また画面下に簡単な字幕を挿入する機能をつけても良いでしょう。ニコニコ動画のようにコメントを挿入したいタイミングでボタンを押して字幕文を追加するようにすればユーザーの手間もない。


ゲーム内の画像などは自社の著作権であるためコントロールしやすいですが、音楽データなどは諸々扱いに困ったりするため、リプレイデータではこの動画利用に限り頒布可能なリプレイ専用音楽を数種類用意すればよろしい(この音楽データ自体は同社の他ソフトで流用したって良いのだし)。


宣伝になり、サーバー管理コストを余所に押し付けられ、ユーザーに新しい楽しみ方を提供できる方法だと思うのですがどうでしょうか。バンナムとかやりませんか?

ゲーセンノート文化を振り返る

前回エントリで「ゲーセンノート」について触れたが、現在見ることも希なゲーセンノートという文化は、90年代のオタク文化にとって重要な事実であるにも関わらずまとまった情報がなく、後年のオタク史では語られないままになってしまうのではないか、と感じていた。オタク文化史の流れ、特に同人文化の流れを見ると欠かせないネットワークが形成されていたが、存在そのものが草の根であったためあえて触れられることが少ない。ブコメid:y_arimが危惧していたが、僕も同じ思いを持っている。
だから、ここにゲーセンノートという文化についてわかるかぎりを残しておこうと思う。
ちなみに僕は93年ごろからゲーセンノートの書き込みを始め、川崎の数店舗・渋谷・代々木他の店舗などで常連となり、流しのノーターとして各地のノートを書き込み、あるいは読んできた。体験談が元になっているため、一部客観性が失われている可能性についてあらかじめお詫び申し上げる。

■ゲーセンノートとは

ゲーセンノートとは名前の通りゲームセンターの一角に置かれたコミュニケーションノートを指す。基本的には店舗が管理を行っているが、例外的に常連客が店舗側に交渉して置かせてもらい、管理を担当している場合もある。
大概の場合、ゲーセンのビデオゲームコーナーの一角にテーブルが置かれ、コミュニケーションノートと筆記用具、場所によってはスコア記録帳、イラスト記帳用のバインダー(白紙のルーズリーフ入り)もしくはクリアファイル、ゲーメスト、新作ゲームの広告が置かれていることも多い。
このゲーセンノートにはゲームの攻略情報や、新作ゲームに関する話題、人気ゲームのキャラクター論、ゲームキャラクターのイラスト、ノートに関する自治議論、「今から飯食ってくる」、常連同士の馴れ合いと言い争いが書き込まれる。常連の少ない店ほどチンコマンコウンコが殴り書かれることが多い。
ゲーセンノートの起源は後述するが、格闘ゲームブームから音ゲーブームの期間、93年から98年が最盛期であった。特に格闘ゲームブーム期は同人文化をも飲み込む勢いであったため、絵師やコスプレイヤーが数多くゲーセンノートを利用している。

■ゲーセンノートの起源 −スコア記録帳としての成立と定着

ゲーセンノートの誕生は定かではなく、諸説が語られているが、高校時代の級友のお父様から、1978年のスペースインベーダーブームに伴うゲームセンターの乱立期にスコア記録ノートが置かれていたという話を聞いている。記帳の文化はゲームセンターの発生以前から存在するため、別の形でどこかのゲームセンターにノートが置かれていた可能性はあるが、ゲーセンノートは元々スコア記録用として始まったと、考えて良いだろう。

「スコア記録用」としてのノート文化が明確に拡がる契機となったのが83年のべーマガ・及びゲーメストが始めたハイスコアランキングだった。これは全国100店以上に及ぶゲームセンターの協力のもと行われていたが、この集計にスコア記録ノートが置かれたのだ。
当時、ベーマガゲーメストのハイスコアランキングはゲーマーにとっての権威であり、ゲームに新しい流れと楽しみ方を生み出す存在だった。遠い地方のプレイヤーが出すスコアに驚愕し、上位に食い込めるだけの記録を出せるよう地元で修練を積み、トップゲーマーがどんな奴かを仲間同士で話し合う。そして自信をつけたゲーマーはランキング集計店に集まり、全国ランキング戦に参加するのだ。
この時期のランキング集計店の雰囲気もまた、失われてしまった一つの文化である。近隣各地からゲーマーがランキング集計店に集まり、技術を切磋琢磨し、居住地を越えてコミュニケーションをはぐくむ。ノートはその目標となり、ゲーセンはゲーム文化を包み込む場として機能していた。そしてゲーマーの集まる“場”として、ノートには新しい役割が生まれる。これが後年爆発的に流行する「コミュニケーションノート」だ。

■ゲーセンノートの発達 −コミュニケーションノートの全国普及

コミュニケーションノートとしてのゲーセンノートの発生をランキング集計店としたが、ハイスコアランキング期以前からどこかで行われていただろうことは容易に考えられる。しかしオタク文化の文脈としてはこれを発祥とするのが正しいだろう。これ以前のコミュニケーションノートはおそらくラブホテルに置かれたノートと同様、ヤンキー文化の一つとして語られるべき存在であるように考える。

さて。スコア記録帳・コミュニケーションノートとして、複数の役割を持つことになったゲーセンノートだが、ベーマガゲーメストが相次いでハイスコアランキングを終了したことで、コミュニケーション部分のみが育っていくことになる。
(店舗協力のもと行われていたハイスコアランキングだが、虚偽の報告やスコアの出し渋りなどの結果、価値をなくしていったのである。ただしぷよぷよのブーム時など、散発的にスコア記帳が復権した時期は存在する)
そしてコミュニケーションが主な目的となったことでゲーセンノートはランキング店舗だけでなく、全国のゲーセンに広がっていくようになる。
ストIIのリリース以降発生した格闘ゲームブームはゲームセンターに多くの熱狂者を集め、常連達のコミュニケーションが行われるようになっていく。
その後、格闘ゲームブームは同人文化の中心的な存在にもなる。これにより多くの絵師・コスプレイヤーもゲーセンノートに参加していくことになるのだ。
特にそのキャラクターが人気を集めたKOFシリーズがリリースされるころ、ゲーセンノートはその最盛期を迎える。

■ゲーセンノートの終焉 −1つの文化の終わり

ゲーマーにとって重要なネットワークツールとして用いられたゲーセンノートであるが、98〜99年を境に、急速にその数を減らし滅びていくことになる。原因は2つ考えられる。


1)格闘ブームの終焉に伴うゲーセン離れと筐体の高額化
各地で盛り上がっていたゲーセンノートだが、話題の中心が格闘ゲームであったことはほぼ異論のないところだろう。この格闘ゲームブームが98年頃には終わりを迎えていた。代わってゲーセンで台頭したのはビートマニアに始まる音ゲーであったが、これらは絵師の心をくすぐらないものであったこと、これまでのゲーマー全員が移行できるジャンルではなく多くのゲーマーが離れてしまったため、既存のノーターが離れる結果となった。(逆に音ゲーユーザーのコミュニティ形成のために生まれたゲーセンノートも存在したが、次に挙げる原因で長くは続かなかった)
また、音ゲーブーム以降のゲームはこれまで格闘ゲームブーム時代のように基盤の入れ替えだけでは展開できず、高額な筐体の購入が必要になることで、ゲーセンノートを置いていた多くの店舗が縮小・閉店を余儀なくされてしまった。2000年以降は都市型・郊外型大型店舗がアミューズメントゲームの主役となるが、これらの店舗とゲーセンノートはなじまないため、ゲーセンノート文化は継承されなかったのだ。
ゲームセンター内の様相が時代と共に変わってしまったことにより、ゲーセンノートがその役割を終えたのである。


2)インターネットの流行
b:id:kanose氏が98年に言及されたとおり、オタクというのはネットワークを形成することに非常に長けた人種である。彼らは使いうるあらゆる手段を使って同好の士とのコミュニケーションを楽しんできた。そんな彼らにとってインターネットは最高のツールとなった。ハイスコア集計のオンライン化、あるいは直接的にオンライン対戦が楽しめるゲーム、同好の士との出会いも、コミュニケーションもネット上で行える…となればもはやゲーセンノートが存在する意義は多くない。


かくしてゲーセンノートは一気にその数を減らしていく。後述するがゲーセンノートというのはとかくトラブルの多いもので、トラブルが発生した場合、すぐにノートの撤去が行われてしまう。新たにノートが立ち上げられることは少なく、2009年現在、活発なやりとりが行われているノートを見ることは難しくなっている。

■ノーターあるいはノート常連

このゲーセンノートに定期的に書き込みを行う人はノーター・あるいはノート常連と呼ばれている。基本的にゲーマーであり、その上で(格闘ゲームブーム時代は特に)絵師・コスプレイヤーの比率が高いなど、同人文化と近い位置に置くことができる。
が、ちょっとオタク系コンテンツに興味がある程度の「普通の」女子中高生が混ざり込むことも希ではなく、変な異文化交流や愉快な人間関係に発展することが多い。

■店舗単位のコミュニティ

ゲーセンノートの常連達はノートを通じてコミュニティを形成するが、その雰囲気は排他的に映ることが多い。ノーター以外のゲーセン利用者からいつも群れている連中と映るだけでなく、他店舗の常連との中も多くの場合良好ではない。他店常連がホーム店舗にいるとちょっとピリピリした空気が流れたり、場合によっては小競り合いが発生することも少なからずある。
一方でノーター個々人はアウェーのノート店舗を訪れることも多く、複数拠点を持つことも多いほか、流しのノーターとして各地のノート店舗を訪れては各店の常連とコミュニケーションを育む例もある。
また、ハイレベルなゲーマーが集まる旧ベーマガゲーメストランキング店舗や、秋葉原・代々木・池袋などのオタクの聖地に存在する店舗など、様々なエリアのノーターが集まり巨大なコミュニティを形成する場所も存在する。これら巨大店舗では数日で2〜30ページが余裕で埋まってしまうなどインターネットのない当時では考えられないほどの情報交換が行われていた。

一つの店舗のコミュニティの雰囲気で見ると、一つのサークルのように見えることが多いだろう。ゲーセンに集まって1日ゲームをしたり、雑談をしたり、ノートにイラストを描き込んだり。閉店しても店外で雑談をすることしばしばで、大晦日や正月などはノーターが集って最寄りの神社を詣でる。喧嘩もあれば仲間意識もある、派閥もできるし恋愛でもめることもある。

■代々木の落書きボード

ゲーセンノートと同時期に存在した文化として、JR代々木駅内回りに置かれていた「落書きボード」がある。これは当時代々木の予備校生達が願掛けとして駅に落書きしていた行為の対策として始められたものであったが、同駅に代々木アニメーション学院があったためか、ハイレベルなイラストが描かれるようになり、次第に聖地化していったものである(考えてみると鷲宮の痛絵馬などはこの文化に近いかもしれない)。
このボードでは絵師達の直接的なコミュニケーションは多く行われなかったが、送り手と受け手のコミュニケーション例として後生のオタク史に残しておくべき現象であろう。
(落書きボードは現在存在しない)

■ゲーセンノートを置くメリット・デメリット

ゲーセンノートは店舗側が設置する物であるが、店舗にとって明確なメリットの見込めるものであった。ゲーセンというのはとにかく稼働率を高めることが重要であり、毎日何千円もゲームをプレイしてくれる常連というのは欠かせない要素だが、ノートを設置することでこの常連を獲得することができるのだ。ノートがあることで、ヘビープレイヤーが他店舗に逃げないというメリットは大きく、ノート設置にかかる費用も少ない。このため、新規顧客が多く見込めない小規模店舗はこぞってノートを設置することになる。
アミューズメント業界誌でゲーセンノートについて言及されるなど、このメリットは当時非常に有望視されていた)
しかし、ノート常連がゲームもせずに店舗に居座っている、人気ゲームを集団で占有するなどといった苦情もあり、ノーターによるトラブルが発生した場合、ノートを撤去しコミュニティを実質解散させなければならないことも多くあった。

「ゲーセンノート」はゲームセンターにとっては「百害あって一利なし」なんだが、経営者側がそれに気付く前に現場の不見識により広まってしまった、というのが実情ですよ。 : ゲームセンターに明日はあるの? - livedoor Blog

店側からの視点での言及がされている。述べられている意見は正しく、言及された内容は事実として経験している。店員から有力な常連やノートに対するコントロールが行われる例は多い。またノート常連が金を使わないという悩みは多くの店員から聞かれたことでもある。

■ゲーセンノートとペンネーム

同人文化では古くからペンネームを用いる文化があり、パソコン通信・インターネット文化でもペンネームは一般的に用いられるが、ゲーセンノートでもこのペンネームが用いられることが多い。
元々はゲームのスコアネームが用いられていたが、ゲーメストのハイスコアランキングの影響や、他のオタク文化との融合によりペンネームが使われるようになった。ゲームセンターというオタク以外の人種も多く集まる場でも平然とペンネーム文化が培われていたことは、一つ特筆に値する現象と言えるだろう。

■ゲーセンノートと絵師

ノートを彩る絵師の存在はゲーセンノートにとって欠かせない存在である。インターネットや同人界隈と異なり、淘汰する存在が少ないため下手なイラストの含有率も非常に高くはあったが、その中でもハイレベルな絵師は少なからずおり、彼らはゲームの上手さを問われることなく常に尊敬の的となった(なぜか絵の上手い人はゲームも上手いのだが)。一時のオタク文化の傾向として「絵の上手さ=強さ」のような感覚があるが、ゲーセンノート文化はまさにその中にあったと言っていいだろう。
また、バインダー設置店などではルーズリーフを持ち帰りトレースしたイラストを持ち込んで賞賛を得ようとする偽絵師がいたり、トレースだとおもったらモノホンの漫画家やイラストレーターだったなど、ゲーセンノートならではの光景も見られる。
各地のゲーセンを回って美麗なイラストを楽しむというのもまた、僕のような流しのノーターにとっては代え難い楽しみであった。

■トラブル

昼の部・夜の部闘争

ゲーセンを核として生まれるゲーマーコミュニティで特徴的なトラブルがこれ。放課後に集まる学生同士が形成するコミュニティと、夜間から深夜にかけて集まる社会人ノーターが形成するコミュニティが分断され、ノートの主導権を賭けて争われることがある。このトラブルは1日中ゲーセンに入り浸るフリーターや専門・大学生常連が多い場合や、魅力的な絵師がいると発生しないためポピュラーではないが、店舗を中心としたコミュニティの紛争例として印象的であった。

ノート持ち出しトラブル

常連絵師が気合いの入ったイラストをノートに書くべく、ノートを自宅に持って帰ってしまい、ノーター間で大論争・大喧嘩になるのは、ゲーセンでは極めて一般的なエピソードだ。大概の場合持ち帰った張本人は軽くシメられ、対策としてイラスト専用のバインダーが置かれるようになる。

イラストレーター問題

ゲーセンノートはゲームキャラなどのイラスト次々と書き込まれ、知らない店舗のノートを見るのも楽しいものだが、このイラストが元で論争が起こることも多かった。
論争の原因となるのは大きく3つで、「1ページ丸々使ってイラストを描くのはページの無駄だ」「公共の場でエロイラストを描くのはどうかと思う」「お前下手」。大概の場合は不毛な論争の後にうやむやとなるか、対策としてバインダーが置かれるようになる。大概問題の解決策は「専用ノート/バインダーを作れ」となったりするので、ノート乱立を招いたりする。

盗難問題

魅力的なイラストを描く絵師がいるノートの場合、ノートの盗難やバインダーに収められたイラストの盗難が発生する。何かと便利な対策として挙げられるバインダーだが、持ち出しが簡単なので好みのイラストだけ掠め取る行為も見られた。「どうすれバインダー」なんて冗談はともかく、自治論争が盛り上がって面倒くさがられてノートが廃れるというのもゲーセンノートの崩壊例としてよく見られる。厳重に紐で机につながれたノートがあったとしたら、これはこの手の騒動の跡であると考えて良いだろう。

ゲーセン間抗争

ノーターのコミュニケーションは店舗単位で排他的であるため、店舗間でのトラブルというのは各地で散見される。特にノート店舗でノートが撤去されたり閉店してしまった場合、ノーターが近隣のノート店舗に一斉にホーム替えをする「ノート難民」が発生した時に起こることが多い。

ゲーセンクィーン

ゲーセンクイーンってのはまだ存在してるのかね?
「ゲーセンクイーン」の成立条件と生態 - シロクマの屑籠
ゲーセンクィーンは古今どんなゲーセンにも発生しうる - hatena@raf00
オタク男子中心のノーターコミュニティに女子が入ってくると、この女子を巡る恋愛問題が発生し、ほのぼのしていたコミュニティが一気に崩壊することがある。所謂サークルクラッシャーのゲーセン版で、オタクサークルならどこでも発生する問題だ(TRPG業界では「粘着湯気女」と呼ばれたりしていた)。
ノートコミュニティを巡る恋愛沙汰というのは数限りなく存在し、僕もゲーセンクィーンを原因としたノート崩壊例や、一見何気なく集まった男子4人女子4人がそれぞれ複数人との肉体関係を持っており、にこやかな雑談の裏で全員が肝を冷やした「夜中のオクラホマミキサー事件」、人気ノーターの彼女が陰で他の常連と援助交際をしていた「不知火舞の声真似事件」などに出くわしている。

ゲーセンクィーンは古今どんなゲーセンにも発生しうる

「ゲーセンクイーン」の成立条件と生態 - シロクマの屑籠

  • 1.ある程度の集客力のあるゲーセン
  • 2.ゲームにまつわるコミュニティが自然発生しているようなゲーセン
  • 3.女性客でも遊べるようなアメニティや雰囲気が整備されているゲーセン
  • 4.女性客と男性客が、接点を持てるようなゲームが置かれているゲーセン
  • 5.ゲーセン以外に女性との接点を持つ機会を欠いている男性がたむろしたゲーセン

このエントリで挙げられている5つの成立条件は、90年代後半以降の郊外型大規模店舗・都市型大規模店舗でのケースとしてはピタリとあてはまるでしょう。
これらの店舗は客が流動的でカップル層が多く賑やかであり、コミュニケーションが取りにくかったため、言及の通り音ゲー・リズムゲーがゲーセン内コミュニケーション発生の重要な契機となりました。
また、追って普及を始めた携帯電話によって、コミュニケーションが一期一会で終わらず、継続したつながりになった点も後押ししていると思います。


で、これ以前。90年〜97年頃のゲーセンでは既に広範囲でゲーセンクィーンたちが存在していました。
そして、現在も(減少しているものの)上記の成立条件に当てはまらない場所で「姫」に関わるトラブルは起きています。


ゲーセンクィーンの発生条件は(2)だけなんですよ、実際。
むしろ集客力のない特定の常連が集まるゲーセンであるほど高頻度でクラッシュするし、(3)の条件を満たさないゲーセンの方が(5)にあてはまる男性が多い。
また、ゲーセンクィーンは1店舗あたり1人いればよいため、気楽に女子が通える環境は必要なく、たまたまゲームが好きだったから・対戦が好きだからといった希少な女子がいるだけで成立しえます。むしろ女子比率が増え男女比率が適正になった近年は恋愛対象が分散し派手なクラッシュが起こりにくいといっても良いでしょう。
ゲーセンクィーンが最も輝くのは紅一点であるタイミングで、この状況下でこそサークルクラッシュは発生します。旧来型のゲーセンの方がゲーセンクィーンが活躍しやすく、特定の常連が固まりやすくなることで派手な崩壊劇が起こるのです。


で、ゲーセンクィーンとゲーセンのコミュニティを語る上で外せないのが「ゲーセンノート」の存在。
このノートがあったことで、「ゲーセンのコミュニケーション」というのは非常に特殊なものとなっています。


かつて、オタク・ゲーマーのコミュニケーション手段として、ゲームセンターのコミュニケーションノートが盛況でした。
ゲーセンの一角に置かれたノートに、ゲームの話題や攻略情報、獲得スコアを書き込んだり、イラストを描いたり、対戦の待ち合わせを書いたりするものですが、このノートに継続して書き込む人たちが知り合いになっていき、1つのコミュニティを形成するようになります。
ノートが置かれることをきっかけに、全国各地にゲーセン単位でのコミュニティが生まれていたのです。

ゲーセンノートの存在によって、ゲーセンではその規模を問わず、濃密なネットワークが存在していました。店舗単位でのみ成立する、日夜顔を合わせる極めて濃密な、そして暇な男性ばかりのネットワークです。
そして、常連の会話が、イラストがぎっしり描き込まれたノートをたまたまゲーム好きの女性が発見し、書き込みをしたとしたら。
もはやその後は語るまでもないことで。


というわけで98年以前の状況についてちょっと書いたわけですが、ゲーセン文化が死につつある今、ゲーセンノートを振り返り軽くまとめておかねばと思ったりしましたよ。


 資料:当時のオタクコミュニケーションについてはid:kanoseさんが98年に言及されています。
    当時の空気感がわかる非常に素晴らしい資料です。
    ARTIFACT −人工事実− : オタク定点観測 第3回 今、繋がっている感覚

有料サービスが抱える課題 − 続・少額決済について

前回の「少額決済について」をお読みいただきありがとうございます。
説明しきれていなかった部分と、1日明けて様々な反応、言及をいただいたので、追記したいと思います。

関連の超おすすめエントリ

紅茶屋くいっぱのあれこれ日記
あなたわ しにました

それぞれECサイトとPCゲームの現場からの具体的な数値事例。
どちらも大変素晴らしいデータ・事例が満載なので有料サービスを考える上では必ず目を通しておきたいものです。
つうか、id:kuippaさん、id:godneeさんのような以前からブコメなどを見て「良い事を書くなぁ」と思っていた方からトラックバックいただいたことは望外の喜びであります。

「携帯決済にまとめればいいじゃない」について

ブコメで多く言及された「携帯での決済にまとめていくのが解決法」というご意見ですが、これは考えてみるとちっともよろしくないのです。
godneeさんのエントリでまとめられていますが、実際に携帯で決済が行えるサービスというのは実際に存在しているものの、まともに機能するとは考えられません。

まずもって面倒くさい。
・PCで登録作業を進めてID・PASSを発行。
・携帯決済用のQRコードでの読み取り、またはメールアドレスを入力
・携帯を取り出して読み取った、メールで着信したURLにアクセス
・携帯サイトでID・PASSを入力
・携帯の画面にてサービスの利用料や商品などを購入
・PC画面にもどる
と、これだけの手順を踏まなければなりません。正直手順を書くだけで疲れる。
これだけの手間がかかるのであれば、財布からクレジットカードを取り出した方がよほど便利ですね。

携帯決済が優れているのは、携帯で何かに料金を支払うときに使っているその携帯だけで決済が完了する点である、と言えるでしょう。
(加えて余談ですがQRコードの利用率というのはとんでもなく低く、数値を知っていればPCと携帯の連動などまだまだ遠い話なのだ、と感じられることでしょう)

また携帯電話決済に切り替えたところで手数料が高いことには変わりないという点は変わりません。この点でも携帯決済がエレガントな解決方法にはなりえないという認識は必要でしょう(純粋な携帯サイト自体も携帯の決済方法を持っているから順風満帆である、というわけではありません。あちらはあちらで課金に対して悩ましいところがあります)。
メリットとしては高校〜大学生あたりのユーザーにとっての数少ない決済手段になること、決済システムの開発費用が相当抑えられることが挙げられますが、携帯決済だけに頼るのは不安すぎるので結局他の決済手段を用意するためにも決済システムは必要だったりします。


とりあえず帰宅のため、続きは後ほど。メリー・クリスマス!

有料サービスが抱える課題 − 少額決済について

b:id:NOV1975さんのご指摘がその通りだなと思ったので序文訂正。
※そういや前に関連の話題に言及してた。
 有料サイトの苦境。近づく無料サイトの限界 - この先、しばらく道なりです
※24日訂正。ダイナーズじゃなくてダイナースでしたねb:id:ramsさん。
 あとNICOSの存在をすっかり忘れてた。


インターネットください
「サイト存続のため、アバター買って」 カフェスタが異例の呼び掛け - ITmedia ニュース
「タダが当たり前」の時代は終わる? カフェスタが「お金払って」と呼び掛けた理由 (1/2) - ITmedia ニュース
有料ネットサービスが成功しないたったひとつの理由 - いつか作ります - 断片部
コンテンツで収入を得ていける仕組みをみんなで考えよう - novtan別館


ここ最近、再度有料サービスに関する話題が出てきているのですが、実際に有料サービスを運営する上での誤解が多くあるので問題がいくつか言及されていなったので、触れておきたいと思ったわけですよ。

今回は「少額決済」について、その難しさを説明したいと思います。

少額決済を妨げる手数料の問題

Webサービスの将来について話をするとき、必ず話として出てくるのが「少額決済システムの搭載」ですが、現在のところ、まともに成り立っているサービスがないということに疑問を感じないでしょうか。
これにはWebサービス屋のアイディアだけではどうにもならない事情があります。

最初に大きな要素として挙げられるのが決済ごとに発生する手数料の問題。
Webの決済手段というとクレジットカードや銀行引き落とし、WebMoneyなどがありますが、これらはタダで利用できるわけではありません。
クレジットカードの利用ごと、銀行の与信ごとにサービス運営者は各カード会社や銀行に対して手数料を払わなければならない仕組みになっています。また、ほとんどの場合各クレジットカード会社と直接やりとりをするわけではなく、決済代行の企業を介するため、手数料はさらに膨れあがります。

たとえば銀行であれば〜50円、クレジットカードが50円〜100円ほど、WebMoneyだと1決済あたり100円強の手数料がかかってきます。

つまり、100円未満の決済を行うと、ユーザーから入ってくるお金よりも、決済のために支払わなければならない手数料の方が高くついて赤字になってしまうわけです。
他諸々の経費を考えると、1決済あたりの最低単価は300円くらいに設定しないと、どうやっても赤字になってしまうのが現在の課金システムの状況です。

決済システムの開発は大変です

また、少額決済に限らず決済システムの構築というのは非常に開発負荷が高いのが制約になってきます。開発と保守に関する工数の大きさはサービスの採算分岐点をすごい勢いで押し上げ、以後の修正開発にも少なからず影響を与えます。
先ほど「決済代行企業を介する」と書きました。自分たちで作れば仲介の手数料分は稼げるじゃないか、と思われる方も多いかもしれませんが、自前で決済システムを構築するのはひどく大変なのです。
まずクレジットカードだけでもVISA・JCB・MASTERS・DC・ダイナース・AMEX・NICOSと7パターン、さらに銀行引き落としを可能とするなら対応銀行分、WebMoneyを使うならさらにそれだけの決済システムを作らなきゃならない。その開発工数たるやどれだけか。費用を回収するためにどれだけの売上を立てなければならないか。
決済システムをまともに作ってかつサービスを黒字にするなど、よほど見込みがあるか見積もりを適当にやっているサービスでないと考えられない。

もちろんサポートコストも馬鹿になりません。売上1000万規模でも課金に関するサポート対応、請求業務で1人月は軽くかかるので、これに耐えられる運営を行わなきゃならない。

後払いは相当まずい

で、決済手数料が問題になるなら毎回の利用ごとではなく、月末に請求する後払い方式にすればいい、と思うかもしれませんが、後払いにした場合クレジットカード以外の決済方法では未払いが大量に発生するため全くおすすめできない状態に陥ります。
僕が以前関わっていた有料サービスでは銀行引き落としを選択したユーザーのうち2割が未払いになるという惨状。その時点での損失もさることながら、未払いユーザーに対する請求業務がさらに運営上のコストとして響いていました。
クレジットカードであればこの状況は回避できるでしょうが、万一サービスが大成功した場合、会員のカード利用情報をクレジットカード会社に一気に送信することになり、それもまた大丈夫なのか…と不安になることうけあいです。

携帯と同じようにはいかない

いや、携帯は成功しているじゃないか!という意見があるかもしれませんが、あれは
 ・携帯を持っている時点で他に登録のいらない決済方法であり、
 ・決済方法としてユーザーに信頼され、
 ・携帯で携帯のコンテンツを得るという逃げ場のない環境である
という3つの要因が前提となっているんです。
運営者側としても決済システムが用意されていること、請求業務が極めて楽なことなど手数料を払うだけのメリットが存在しています。

これをPCにあてはめることが難しいのです。
クレジットカードであれば決済方法として信用はあるものの、情報の重要度が高すぎて入力をためらうユーザーが多い上に、カードを持っていないユーザーも少なくない。
銀行振り込みは多くのユーザーが利用できる物の、即時決済の手段とならず、即時決済を避けると未払いのリスクが高すぎる。
電子マネーは手数料が高すぎてサービス運営者側にとって負荷が高すぎる上に、どの電子マネーもシェアが低くてまともな決済手段として使えない。
プロバイダ一括請求は携帯払いに近い感覚をもたらすものの、プロバイダの数が多すぎてとてもサービスに含められたもんじゃない(ついでに手数料も高い)。

現在PCの支払い方法として考えられる全てが携帯と全く異なる状況なのです。

じゃあ可能性はないのか?

というわけで、現在のところWebではほとんど少額決済のシステムを装備できないでいます。
とはいえ、将来に向けていくつかの可能性は考えられます。
それは「ポイント購入制」。まず一定額のポイントを購入させることで決済回数を減らし、以降は小さい単位で利用できるのがメリット。この方法ははてなや、paperboy&co.の「おさいぽ!」が採用しています。これを実施できるのは「資金的に余裕があり、ポイントを購入しても多彩かつ有益な利用方法があり、近い将来の発展が期待されている」企業に限られますが。